【特集】今求められる子どものIT教育 – こどもIT

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はじめに:なぜ今、子どもにIT教育が必要なの?

「うちの子、スマホやタブレットばかり見ていて心配…」

「学校でパソコンが配られたけど、ちゃんと使えているのかしら?」

「プログラミングって、うちの子にも必要なの?」

今、多くのお父さん、お母さん、そして学校の先生方が、このような疑問や不安を抱えているのではないでしょうか。私たちの社会は、AIやあらゆるモノがインターネットにつながる「Society 5.0」という新しい時代を迎えようとしています。この大きな変化のなかで、子どもたちに求められる力も大きく変わってきました。

この流れを受け、日本は「GIGAスクール構想」をスタートさせ、全国の小中学生に1人1台の学習用端末を配備するという、世界でもトップクラスのスピードで教育のデジタル化を進めました。しかし、道具がそろっただけでは十分ではありません。本当に大切なのは、その道具を賢く、安全に、そして創造的に使いこなす力、いわば「心のOS」を子どもたちの中に育むことです。

この記事では、日本のIT教育が今どのような状況にあり、どんな課題に直面しているのかを、保護者や先生方の視点に立って、分かりやすく解きほぐしていきます。そして、これからの時代を生きる子どもたちに本当に必要な力とは何か、家庭や学校で今日から何ができるのかを、一緒に考えていきたいと思います。

第1章 どうなってるの?日本のIT教育の”イマ”

「IT教育」と一言でいっても、具体的に何が行われているのか、イメージしにくいかもしれません。ここでは、国が進める大きなプロジェクトから、学校の授業、そして人気の習い事まで、日本のIT教育の「今」を3つのポイントで見ていきましょう。

国の取り組み:「GIGAスクール構想」ってなに?

「GIGA(ギガ)スクール構想」とは、文部科学省が中心となって進めている、未来の社会「Society 5.0」を生きる子どもたちのための教育改革プロジェクトです。一番の目玉は、全国の小中学生に1人1台のパソコンやタブレットを配備し、高速のインターネット環境を整えること。これにより、一人ひとりの学習ペースや興味に合わせた「個別最適な学び」を実現することを目指しています。

当初は2023年までの計画でしたが、コロナ禍をきっかけに一気に前倒しされ、2022年度までには、ほぼすべての市町村で端末の配備が完了しました。これは世界的に見ても驚異的なスピードです。

しかし、急いで端末を配ったことで、「教える側の準備が追いつかない」「学校のネットが遅くて使いにくい」といった課題も見えてきました。そこで現在、「NEXT GIGA」という次のステップに進んでいます。ここでは、古くなった端末の計画的な更新や、学校のネットワーク環境の改善、そしてデジタル教科書の導入拡大などが進められています。

GIGAスクール構想は、まず「形」から入ることで、日本の教育を大きく動かしました。これからは、その「中身」をいかに充実させていくかが問われています。

学校の授業:いつから何を学ぶの?

新しい学習指導要領では、ITスキル(情報活用能力)は、国語や算数と同じように、すべての学びの土台となる力と位置づけられています。子どもたちは、年齢に合わせて段階的にITに触れていきます。

幼稚園・保育園:遊びのツールとして

この時期は、難しい「お勉強」ではなく、遊びを豊かにする道具としてICT機器に親しみます。タブレットで虫を拡大観察したり、自分たちの活動を動画で撮ったりと、楽しみながらデジタルに触れる機会が増えています。

小学校:「プログラミング的思考」を育む

2020年度からプログラミング教育が必修になりました。ただし、目的はプログラマーを育てることではありません。大切なのは「プログラミング的思考」、つまり「目標を達成するために、どういう手順で、何を組み合わせればよいか」を論理的に考える力を養うことです。算数で正多角形を描くプログラムを作ったり、理科で電気を制御するプログラムを考えたりと、各教科の学びを深める手段として活用されています。

中学校:より実践的なスキルを学ぶ

「技術・家庭科」の授業で、より本格的な情報技術を学びます。ネットワークの仕組みや情報セキュリティ、著作権といった知識に加え、簡単な計測・制御のプログラミングも体験します。

高等学校:大学入試にもつながる「情報Ⅰ」

2022年度から、文系・理系を問わずすべての高校生が「情報Ⅰ」という科目を必ず学ぶことになりました。プログラミングやデータ分析、情報セキュリティなど、より専門的な内容を体系的に学びます。そして最大のポイントは、2025年から大学入学共通テストの試験科目に「情報Ⅰ」が加わることです。これにより、「情報」は国語や数学と並ぶ主要教科の一つとなったのです。

このように、幼稚園から高校まで、一貫した流れでITスキルを育んでいく仕組みが作られています。

表1:学校ではいつ、どんなIT教育が行われているの?

教育段階ポイント主な学習目標
幼稚園・保育園遊びの中でのICT活用デジタルツールに慣れ親しむ
小学校全教科でのプログラミング教育論理的に考える力(プログラミング的思考)を育む
中学校技術・家庭科(技術分野)ネットワークの基礎や情報モラル、簡単なプログラミングを学ぶ
高等学校共通必履修科目「情報Ⅰ」プログラミング、データ分析など総合的な情報科学を学ぶ(大学入試科目)

習い事:プログラミング教室が大人気!

学校でのIT教育の本格化に伴い、習い事としてのプログラミング教室の人気が急上昇しています。2024年の市場規模は253億円を超え、6年連続で成長を続けています。

このブームの背景には、保護者の皆さんの高い関心があります。小学校での必修化によって「学校の授業に備えたい」というニーズが高まり、さらに大学入試への導入が決定打となり、「受験対策として必要だ」と考える家庭が増えました。また、ITスキルを持つ人材が高収入で活躍するニュースなどを見て、「子どもの将来のために」と考える保護者が増えていることも、人気を後押ししています。

調査によると、プログラミング教室に通い始めるのは「小学1年生」が最も多く、男女比では男の子が約8割を占めるという特徴も見られます。

民間のプログラミング教室は、学校の授業を補ったり、さらに発展的な内容を学んだりする貴重な機会となっています。その一方で、教室に通えるかどうかは、住んでいる場所や家庭の経済状況にも左右されるため、新たな教育格差につながる可能性も指摘されています。

第2章 IT教育の光と影:見えてきた課題

1人1台端末の普及は、子どもたちの学びに大きな可能性をもたらしました。しかしその一方で、これまでにはなかった新しい悩みや問題も生まれています。ここでは、IT教育が進む中で見えてきた3つの課題について見ていきましょう。

「使える」と「使えない」の格差問題

GIGAスクール構想によって、端末の「数」は全国でそろいました。しかし、本当の差は、その端末が「どれだけ、どのように使われているか」という「質」の部分に現れています。自治体や学校、さらには先生一人ひとりによって、活用の度合いに大きな差が生まれているのです。

ある調査では、端末を7つ以上の多様な方法で活用している先進的な自治体がある一方で、約4分の1の自治体では「調べ学習」など1〜2つの基本的な使い方に留まっていることが分かりました。先進的な学校では、子どもたちがオンラインで共同作業をしたり、一人ひとりに合ったデジタル問題集を解いたりしているのに対し、他の学校では端末が「少し便利な文房具」程度の役割しか果たしていない、という状況が生まれています。

この「活用格差」の最も大きな原因は、先生方の負担です。多くの先生が、日々の忙しい業務の中で、新しいスキルを学ぶ時間を確保するのが難しいと感じています。また、デジタル機器に苦手意識を持つ先生も少なくありません。

住んでいる地域や、担任の先生によって、受けられる教育の質が変わってしまう。これは、GIGAスクール構想が目指した「誰一人取り残さない」という理念とは逆行する、新たな教育格差と言えるかもしれません。

ネットトラブルの増加:子どもたちをどう守る?

便利なデジタル端末は、子どもたちを様々なネット上の危険に晒す窓口にもなり得ます。特に、端末の普及スピードに、子どもたちの危険回避能力の育成が追いついていないのが現状です。ある調査では、中高生の約半数が何らかのネットトラブルを経験したことがあると答えています。

警察庁の統計によると、2023年にSNSがきっかけで犯罪被害に遭った子どもの数は1,665人に上ります。特に、小学生の被害が急増していることは、非常に心配な状況です。被害に遭った子どもたちの多くに共通しているのは、危険なサイトへのアクセスを制限する「フィルタリング」を利用していなかったことです。

また、犯罪だけでなく、オンラインゲームでの高額課金や、SNS広告をきっかけにした契約トラブルといった消費者トラブルも増えています。さらに、「闇バイト」といった甘い言葉に誘われ、知らないうちに犯罪に加担してしまう少年少女も後を絶ちません。

これらの事実は、「危ないから使ってはいけない」と教えるだけでは、子どもたちを守れないことを示しています。危険を自分自身で見抜き、判断し、避ける能力を、子どもたちの中に育てていくことが急務です。

表2:子どもを取り巻くネットトラブルの現状

指標数値出典
SNSがきっかけの犯罪被害児童数(2023年)1,665人警察庁
被害児童のうち小学生の増加率(2022年)前年比37.3%増警察庁
被害児童のフィルタリング利用率約1割のみ警察庁
SNS関連の消費生活相談件数(全年齢, 2023年)80,404件消費者庁

新しいSNSの危険:生成AI、位置情報、プライバシー

最近の子どもたちのデジタル環境は、生成AIや位置情報共有アプリの登場で、さらに複雑になっています。これらは、「知らない人と話してはいけない」といった従来の教えだけでは対応できない、新しい種類のリスクをもたらします。

生成AIがもたらす課題

ChatGPTなどの生成AIは、宿題のアイデアを出してくれたり、調べものを手伝ってくれたりする便利なツールですが、使い方を間違えると危険も伴います。

まず、うその情報を信じてしまうリスクがあります。生成AIは、時々もっともらしい「うそ」をつくことがあります(ハルシネーション)。情報の正しさを見分ける力が未熟な子どもは、それを信じ込んでしまうかもしれません。

次に、著作権の問題です。AIが作った文章や絵を、そのまま自分の作品として提出してしまうと、知らず知らずのうちに著作権を侵害してしまう可能性があります。

そして、個人情報の流出も懸念されます。自分の名前や学校名などをAIに入力すると、その情報が外部に漏れてしまう危険があります。

位置情報共有アプリがもたらす危険

友だち同士でリアルタイムに居場所を共有するアプリは、待ち合わせなどに便利ですが、一歩間違えれば深刻な事態を招きかねません。

第一に、プライバシーの筒抜けになる危険です。これらのアプリは、今いる場所だけでなく、自宅や学校、よく行く場所、さらにはスマホの充電残量まで友だちに知られてしまいます。

第二に、犯罪への悪用リスクです。もし悪意のある人にこの情報が渡れば、ストーカーや待ち伏せ、空き巣などの犯罪に直結する恐れがあります。実際に、アプリが悪用された事件も起きています。

最後に、「仲間外れ」への不安という心理的圧力です。「みんなが使っているから」という理由で、危険を感じながらもやめられない子どもたちもいます。

これらの新しい技術は、これまでのインターネット安全教育のあり方を見直す必要性を示しています。目に見える危険だけでなく、データやプライバシーといった、目に見えにくいものの本質を理解し、自分で自分を守る力を育てることが、これまで以上に重要になっています。

第3章 これからの子どもたちに本当に必要なIT教育とは?

急速に普及したデジタル技術の影の部分を乗り越え、子どもたちがその恩恵を最大限に受けられるようにするためには、IT教育の考え方そのものをアップデートする必要があります。ここでは、未来のIT教育に欠かせない3つの柱をご紹介します。

ルールで縛るより「賢い使い方」を学ぶ教育へ

これまでのインターネット安全教育は、「情報モラル教育」と呼ばれ、「個人情報を書き込まない」「知らない人と会わない」といった「ダメ!」を教えることが中心でした。これは、子どもたちを危険から守ろうとする、いわば「守りの教育」です。

しかし、生まれたときからスマホやタブレットが身近にある「デジタルネイティブ」世代の子どもたちにとって、ネット空間は現実世界とつながった大切な生活空間です。彼らにとって、一方的な禁止ルールは現実的ではなく、効果も薄れつつあります。

そこで今、注目されているのが「デジタル・シティズンシップ教育」という新しい考え方です。これは、子どもたちをデジタル社会の一員、つまり「デジタル市民」と捉え、その社会で責任を持って、より良く生きていくための力を育むことを目指す「攻めの教育」です。危険を避けるだけでなく、テクノロジーを使って社会を良くするために何ができるかを、主体的に考えさせるのです。

この教育は、従来の情報モラル教育とは視点が異なります。

ポジティブな視点からテクノロジーを捉え直します。 テクノロジーの危険性だけでなく、社会貢献などポジティブな活用法にも目を向けます。

子どもの主体性を尊重します。 ルールを押し付けるのではなく、子ども自身が考え、判断し、行動する力を育てます。

現実的な課題に取り組みます。 ネットいじめやフェイクニュースなど、白黒つけられない現実的な問題について、みんなで話し合いながら考えます。

家庭との連携を重視します。 学校での学びを家庭に持ち帰り、おうちの人と話し合う機会を大切にします。

「ダメ」で縛るのではなく、子どもたちがデジタル社会の賢い主役になるための方法を教える。それが、デジタル・シティズンシップ教育の目指す姿です。

表3:「情報モラル」と「デジタル・シティズンシップ」の違い

観点情報モラル教育(これまで)デジタル・シティズンシップ教育(これから)
考え方危険から「守る」社会に「参加する」力を育む
アプローチ「〜してはダメ」という禁止が中心「どうすれば賢く使えるか」を考える
子どもの役割ルールを守る受け身の存在自分で考え行動する主体的な存在
目指す姿安全だが、消極的な利用者責任感のある、積極的なデジタル市民

AIを「賢く使う」ためのリテラシー

ChatGPTなどの生成AIの登場は、情報の扱い方を根本から変えました。これからの子どもたちには、単にAIの使い方を知っているだけでなく、その仕組みや特性を理解し、批判的な視点で付き合う「AIリテラシー」が不可欠です。

その中心となる考え方は、「AIはあくまで道具である」ということです。AIがどんなにすごい答えを出しても、最終的に判断し、責任を持つのは人間である、という原則を忘れてはいけません。

この考え方に基づき、学校や家庭では次のような力を育てていく必要があります。

AIと対話する力

AIに上手に指示を出す(プロンプト)スキルです。一度で完璧な答えを求めず、質問の仕方を変えたり、条件を加えたりしながら、粘り強く対話する力が重要になります。

見抜く力(批判的思考)

AIの答えには、もっともらしい嘘(ハルシネーション)や偏見(バイアス)が含まれている可能性があります。「これって本当かな?」と常に疑う姿勢を持ち、他の情報源と見比べて確かめる(ファクトチェック)習慣が不可欠です。

倫理観を育む

AIが作ったものを自分の作品として発表していいのか、個人情報を入力しても大丈夫か、といった倫理的な問題について、日頃から話し合うことが大切です。

文部科学省のガイドラインでも、アイデア出しの相談相手として使ったり、英会話の練習相手にしたりすることは良い使い方ですが、読書感想文やレポートを丸写しすることは、子どもの考える力を奪うため不適切な使い方だとされています。

AIは、使い方次第で思考を助ける最高のパートナーにも、思考を停止させる麻薬にもなり得ます。AIに「使われる」のではなく、AIを「使いこなす」人間を育てることが、AI時代の教育の最も重要な目標です。

将来の仕事につながるスキル

子どもたちのIT教育は、日本の経済や産業の未来とも深く関わっています。今、多くの日本企業が、ビジネスをデジタル化する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を進めるうえで、深刻なIT人材不足に悩んでいます。

未来の社会で特に必要とされるのは、AI、データサイエンス、サイバーセキュリティといった分野の専門知識です。実はこれらのスキルは、高校の新しい必修科目「情報Ⅰ」で学ぶ内容と深く関連しています。

つまり、小学校から高校まで続く一連のIT教育は、この社会的な人材不足を解消するための、長期的な人材育成プロジェクトでもあるのです。小学校で育む「プログラミング的思考」は、論理的に物事を考える力の土台となり、続く中学校での実践的なプログラミングは、その思考をアイデアとして形にする力を養います。そして、高校での体系的な学習が、未来のDX人材に求められる専門知識の基礎を築くのです。

教室での一つひとつの学びが、子どもたちの将来の選択肢を広げ、ひいては日本の未来の産業を支える力につながっていきます。そう考えると、IT教育の重要性がより一層感じられるのではないでしょうか。

第4章 今日からできる!家庭と学校での実践プラン

これからのIT教育の重要性は分かったけれど、具体的に何をすればいいの?――ここでは、学校や先生方、そしておうちの方々が、それぞれの立場で今日から始められる具体的なアクションプランを提案します。

学校・先生ができること

先生一人の頑張りに頼るのではなく、学校全体で、そして地域と連携して取り組むことが成功のカギです。

体系的なカリキュラムを導入する

情報モラルやネットの安全に関する指導を、年に数回の単発の授業で終わらせず、年間を通じた計画的なカリキュラムに組み込みましょう。国際的にも評価の高い「Common Sense Education」などの教材は、幼稚園から高校まで、発達段階に応じたいじめ対策やプライバシー保護などの授業プランがそろっており、参考になります。

先生方をサポートする体制を整える

先生方が安心してIT活用に取り組める環境づくりが何より重要です。実践的な研修として、講義を聞くだけでなく、実際に端末を操作しながら学んだり、先生同士で成功事例や悩みを共有したりする場を定期的に設けましょう。また、技術的なトラブル対応や教材作成のサポートをしてくれる

ICT支援員の活用も有効です。支援員の配置を増やし、気軽に相談できる体制を作ることが、活用格差の解消にもつながります。

生成AIを賢く授業に取り入れる

AIを禁止するのではなく、思考を深めるツールとして活用しましょう。例えば、俳句や物語を作るときにアイデアの壁打ち相手としてAIにたたき台を作らせ、それを生徒が「もっと良くするには?」と吟味し、修正する活動は創造性を刺激します。また、要約力のトレーニングとして、自分で作った要約文とAIが作った要約文を比べることで、多様な表現方法に気づかせることができます。メディアリテラシーの教材として、AIが作った「うその情報」をあえて見せ、「どこが、なぜ間違っているか」を考えさせることで、批判的に情報を見る力を実践的に養えます。さらに、授業計画やテスト問題の作成など先生の業務効率化にAIを活用すれば、先生の負担を減らし、子どもたちと向き合う時間を生み出すことができます。

おうちの人ができること

学校での学びを確かなものにするためには、家庭での関わりが不可欠です。家庭は、子どもたちがデジタル社会で健やかに成長するための最も大切な土台となります。

「管理」から「対話」へ

一方的にルールを押し付け、利用時間を厳しく管理するだけでは、子どもの心は離れていってしまいます。大切なのは、子どもがネットで何を見て、何を感じているのかに関心を持ち、日頃からオープンに話し合える関係を築くことです。学校から持ち帰ったワークシートなどをきっかけに、「学校でどんなこと習ったの?」と会話を始めてみましょう。

家族の「メディア憲章」を一緒に作る

「食事中はスマホを置こうね」「寝室には持ち込まないよ」「困ったことがあったら、すぐに相談するって約束だよ」――こうした家庭のルールを、一方的に決めるのではなく、子どもと「一緒に」話し合って決めましょう。自分でルール作りに参加することで、子どもに責任感が生まれます。

おうちの人が良いお手本になる

子どもは親の姿をよく見ています。おうちの人が食事中や会話中にスマホをいじっていては、どんなルールも説得力を持ちません。まずは大人が、メディアと上手に付き合う姿を見せることが、何よりの教育になります。

「メディアバランス」を大切に

スマホやゲームの時間をゼロにすることが目的ではありません。大切なのは、勉強や友人との交流、趣味、家族との時間、そして十分な睡眠といった、生活に不可欠な他の活動との「健全なバランス」を保つことです。健康的な食事を考えるように、心の健康のための「メディアバランス」を、家族みんなで意識してみましょう。

究極の目標は「自分で考える力」を育てること

ここまで様々な方法を紹介してきましたが、すべての教育の根底にある最も大切な目標は、子どもたちの「批判的思考力」を育てることです。特定のアプリの使い方やプログラミングの技術は、時代とともに古くなるかもしれません。しかし、情報を鵜呑みにせず、「これって本当?」「なぜ?」「他の見方はないかな?」と多角的に物事を考え、自分なりに判断する力は、どんな時代でも役立つ普遍的なスキルです。

この核心的なスキルは、これまで論じてきたIT教育のあらゆる側面に貫かれています。例えば、デジタル・シティズンシップの実践には、複雑な倫理的ジレンマを乗り越えるための批判的思考が不可欠です。また、AIリテラシーの習得には、AIの出力を盲信せず、その妥当性を評価するための批判的思考が必要です。そして、オンラインの安全確保には、詐欺や危険な誘いをそれと見抜くための批判的思考が求められます。

したがって、最も効果的なIT教育とは、子どもたちをデジタルコンテンツの受動的な消費者ではなく、常に「なぜ?」「本当か?」「別の考え方はないか?」と問い続ける、能動的な探究者へと育てることに他なりません。この探究的な姿勢こそが、予測不可能な未来を生き抜くための最強の武器となるのです。

結論:未来を担う「デジタル市民」を育むために

GIGAスクール構想により、日本の教育現場には世界最先端のデジタルインフラという土台が築かれました。これは、子どもたちの学びを次のステージへと引き上げる、大きなチャンスです。

しかし、本当の挑戦はこれからです。道具を配るだけでなく、それを使いこなす「魂」をいかに育むか。広がる活用格差や、巧妙化するネットのリスクといった課題を乗り越えるためには、教育のあり方そのものをアップデートしていく必要があります。

そのカギは、禁止や制限ではなく、主体性と責任を育む「デジタル・シティズンシップ」という考え方にあります。テクノロジーを賢く、倫理的に、そして社会をより良くするために活用できる市民を育てること。そして、その土台となる「自分で考える力」を養うこと。

この大切な使命は、学校だけで成し遂げられるものではありません。先生方、おうちの方々、そして社会全体がその重要性を共有し、手を取り合って子どもたちを支えていくことが不可欠です。この社会的なパートナーシップこそが、子どもたちの明るく、安全で、創造的な未来を切り拓く力となるでしょう。

宮武 宏樹のアバター

監修

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